
フードトラック(キッチンカー)は、初期費用をかけずに開業できる飲食店の出店業態です。提供する商品や場所が自由に変えられる一方で、車両の改装や出店場所の確保など固定店舗にはない課題も存在します。
今回はフードトラックを開業するメリットやデメリット、必要な資格、事業を上手に運営するポイントを紹介します。
目次
フードトラックとは

フードトラックは、調理設備のある車両のことで、キッチンカーやケータリングカーとも呼ばれています。軽食の移動販売やケータリングに用いられ、コロナ禍によるテイクアウト需要で広く知られるようになりました。
フードトラックの起源はアメリカといわれており、19世紀初頭に南北戦争の軍事物資であった馬車を、「チャックワゴン」と呼ばれる移動式調理施設に改造したのが始まりです。
日本でも、以前から石焼き芋やラーメン、おでんなど「屋台」と呼ばれるスタイルで、移動販売自体は存在していました。2015年頃から、フードトラックやキッチンカーなどの言葉が定着し、国内での認知も広がりました。
フードトラックの現状と将来性

コロナ禍以降もテイクアウトの需要は高く、移動販売を行うフードトラックへの注目が高まっています。
この背景には、主に2つの要因があります。一つ目は、インターネットやSNSの普及により、全国へ告知が簡単にできるようになり、以前と比べて集客の難易度が下がったことです。
二つ目はフードトラック開業支援サービスの増加により、参入障壁が低くなりました。これらの要因により、フードトラックは今後も開業者の増加が見込まれます。
店舗を持たずに飲食店を開業する他の事例が知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。
フードトラックのメリット

この章では、フードトラックを開業するメリットについて紹介します。
初期費用を抑制
フードトラックでの開業は、固定店舗と比べて初期費用が抑えられます。通常、店舗を構えるには、厨房設備や内装工事、店舗の家賃などで1,000万円ほどかかるといわれています。
一方、フードトラックの初期費用は、車両の購入・改装、調理器具や容器・販促品などを合わせて250万円〜400万円程度です。そのほか、駐車場代や保険料などの車両維持費がかかりますが、固定店舗の家賃や水道光熱費と比べると安価といえます。
また、1〜2名で運営できるため、人件費も最小限に抑えられ、自分のお店を持ちたい方にとって大きな利点です。
出店場所やメニューの変更可能
場所にとらわれず自由に移動して販売できるため、固定店舗のように来店を待つ必要がありません。平日はオフィス街、週末は公園やイベント会場といったように、お客様が集まる場所へ移動して販売可能です。
集客が不十分でも次の出店場所へ移動できるため、リスクを最小限に抑えられます。
さらに、出店場所の客層や天候に合わせてメニューを変更すれば、売上アップが見込めます。
フードトラックのデメリット

次にデメリットを紹介します。スムーズに開業するためにも事前に把握しておきましょう。
営業許可の取得が複雑
フードトラックの営業には、出店を予定する各地域の保健所から「飲食店営業許可」を取得する必要があります。
また、2021年に施行された改正食品衛生法により、保健所の検査基準が統一されましたが、細かいルールは各自治体で異なるため、事前確認が欠かせません。
基準を満たしていない状態で車両を入手すると、改装に追加の費用と時間がかかります。
出店場所の確保が大変
もう一つのデメリットは、出店場所の確保が難しい点です。
イベント会場やオフィス街などの人気の場所に空きが少なく、他店と商品の内容が重なると出店を断られる場合があります。そのため、出店場所の確保は大きな課題です。
また、出店先を探すだけでなく、契約業務も必要になるため、負担が増えます。
出店場所について知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。
フードトラックを開業する準備

この章では、フードトラックの開業に必要な準備項目を紹介します。
コンセプト・事業計画の決定
まず、提供する料理や顧客ターゲット、出店場所、価格を決定します。
料理が決まれば、車両サイズや調理に必要な設備などが明確になり、フードトラックの購入費用や出店料などの初期費用を把握できます。
また、この段階から収支計画を作成し、売上、原価、販管費、営業利益、回収期間を把握するのが重要です。収支計画を含む事業計画書は、開業時に十分な資金がないと判明した場合に、融資や補助金・助成金の申請に役立ちます。
食品衛生責任者の資格を取得
飲食店営業許可を取得するには、食品衛生責任者の資格が必要です。
各自治体の食品衛生協会が主催する「食品衛生責任者養成講習会」を受講すれば、取得できます。予約方法は各自治体で異なるため、事前に確認しておきましょう。
この資格には有効期限がなく全国で通用します。都道府県をまたいで営業する場合は、取得済みの修了証を提示すれば、そのまま使用可能です。なお、既に栄養士や調理師免許を取得している方は、資格取得が不要です。
飲食店を開業する際の資格や届出について知りたい方は、下記の記事を併せてご覧ください。
飲食店営業許可申請の準備
各自治体で飲食店営業許可がおりる基準は異なります。
フードトラックの製作にも関係するため、事前に出店先の保健所へ相談に行くことを推奨します。提供する料理や出店場所など事業計画を伝え、必要な設備や申請書類のアドバイスを受けておくと安心です。
実際に車両を入手する前に、考慮したい検査項目が蛇口の水栓と給排水タンクの容量です。給排水タンクの容量は下記のとおり。
| 40リットル程度 | 80リットル程度 | 200リットル程度 | |
| 提供品目数 | 単一品目 | 複数品目 | 複数品目 |
| 調理工程 | 簡易な調理のみ (温める・揚げる・盛り付ける) | 2工程までの簡易な調理 | 複数工程の調理 |
| 大量の水を必要とする調理 | 不可 | 不可 | 可 |
| 車内での仕込み | 不可 | 不可 | 可 |
| その他 | 使い捨て容器のみ | 使い捨て容器のみ | 使い捨て容器・食器の使用 |
給排水タンクの容量に応じて、提供可能な品目と調理工程の数が決められています。タンクの容量が大きくなるほど、車内でできる作業が増えていきます。調理の自由度は上がりますが、その分、車両費や改装費はかさむため、予算に合った車両を選びましょう。
また、食品衛生法の改正により非接触水道の導入が必須となり、一般的な蛇口の水栓は認められなくなりました。2021年6月以降に中古キッチンカーを購入する場合は、注意が必要です。
フードトラックの入手・製作
事業計画に沿ってフードトラックを入手します。既製品のフードトラックは販売台数が少ないため、車両を購入し、調理スペースを架装するのが一般的です。
車両を入手する方法は、主に3つです。
- 新車の購入
- 中古車の購入
- リース・レンタル
リース・レンタルは機材がそろっていますが、出店先の保健所における検査基準を満たしているのか確認する必要があります。
車両を改装する方法は、下記の2つです。
- 業者に依頼する
- 自分で改装する
自作すれば費用を削減できますが、時間もかかり失敗する可能性もあります。業者に依頼する際は、保健所の検査基準と調理に欠かせない設備を伝えておくと安心です。費用はかかりますが、基準を満たした車両を2〜3ヶ月程度で納品してもらえます。
さらに、車両を購入する際には駐車場の確保も行いましょう。
仕込み場所の確保
自治体の保健所によって規定は異なりますが、仕込み場所の確保も重要です。
衛生管理上、保健所の営業許可を受けた施設以外での仕込み作業はできません。保健所に確認をすると同時に、知り合いの飲食店の厨房を間借りするといった対策が求められます。
また、食品衛生法の改正により200リットル程度の給排水設備を備えたフードトラックの車内であれば、仕込みが可能です。
出店場所の確保
フードトラックの開業には、常駐できる出店場所の確保が欠かせません。都会と郊外では条件が異なるため、難易度や許可手続きを理解しておきましょう。
- 都会:営業できる場所が少なく、出店料が高額になる傾向
- 郊外:土地に余裕はあるが、土地所有者との交渉・許可が必要
営業場所ごとの特徴は下記のとおりです。
- 私有地:土地所有者や施設管理者の許可が必要(道路占有許可は不要)
- 公共施設(公園・市役所など):各種許可手続きが必要(例:公園使用許可)
- 公道:イベントや祭りを除き、道路使用許可・道路占有許可はおりないため営業不可
出店場所を探す際は、マッチングサービスの利用が有効です。マッチングサービスとは、キッチンカーの出店場所を簡単に探せるプラットフォームのことです。場所探しに費やす時間と交渉の手間が省け、営業に集中できます。インターネットやSNSと併用すると、さらに効果的です。
自動車保険・PL保険への加入
フードトラックを営業するには、「自動車保険」と「PL保険(生産物賠償責任保険)」への加入が必須です。
自動車保険には、自賠責保険(加入必須)と任意保険があります。4ナンバーや1ナンバーの場合は、一般の保険会社で契約可能です。しかし、8ナンバーの場合、特殊車両の保険を扱う保険会社との契約が必要です。任意保険は、自賠責保険でカバーできない部分を補償するものなので、加入を推奨します。
PL保険は、提供した料理による食中毒や服を汚すなど、お客様に被害を与えた場合の補償です。営業場所によっては、PL保険への加入が条件となっているケースもあります。
フードトラック事業を運営するポイント

この章では、フードトラック事業を成功させるためのポイントを2つ紹介します。
ファンの獲得
安定的な売上を確保し事業を継続させるためには、お店のファンを獲得することが重要です。
お客様に合った料理を提供し、気に入ってもらえれば定期的に足を運んでくれる可能性が高まります。友人への紹介やSNSでのお店の宣伝にも期待できるため、広告宣伝費を抑えながら、認知拡大を図れます。
また、継続的に来店してもらうためには、新メニューの開発や提供スピードの短縮なども欠かせません。そのほか、お店のコンセプトや食材へのこだわりなどお客様とのつながりを意識してSNSを発信すれば、ファンを獲得できます。
リスク管理の徹底
フードトラックは、食品を扱う事業です。正しい衛生知識と適切な管理体制がなければ、食中毒のような健康被害を引き起こすおそれがあります。
また、調理に使うガスや発電機は、誤った使い方をすると大きな事故につながるため、正しい知識が必要です。
営業場所を管理する土地のオーナーが独自のルールを設けている場合もあるので、安全管理を徹底し、ルールを遵守することが求められます。
正しいリスク管理を行い、お客様にも安心感を与えられるお店づくりを徹底しましょう。
まとめ

フードトラックは、比較的リスクが低い出店スタイルです。ただし、調理スペースが限られている点や、移動販売ゆえの制約もあります。今回紹介したメリット・デメリットを理解し、成功のポイントを抑えたうえで準備を進めましょう。
広い調理スペースやデザイン性を重視する方には、HIRAKELのモバイルコンテナがおすすめです。コンテナはフードトラックよりも広く、低価格でオシャレな外観です。移動や設営も簡単で、基本的に建築確認申請も不要なため、納品後すぐ開業できます。
初期費用を抑えたい方や、将来的に自分のお店を持ちたい方は、ぜひご利用をご検討ください。

